山形に住む友人夫妻の家に泊まらしてもらっている。
しかし朝の5時ごろ、僕は突然激しい咳と鼻水に襲われて目が覚めた。
ひとまず湿潤な空気を求めてシャワーに入る。
体も固まっていたのでぬるめの湯が気持ちよかった。
何度かうがいをするとだいぶ気分も良くなり、再度足のストレッチをしてから寝た。
喉が荒れているのはずっと街道沿いを走って排気ガスを吸いすぎたためだろうか、
咳は疲れが出るとしやすいから、まあ肉体的なサインだろうと思う。
風邪ではないが、筋肉疲労と咳と鼻水は割りとシリアスなレベルで
もうもしかしたら旅は続けられないかもなぁと思いながら意識を失った。
朝の10時ごろようやく目が覚める。
主人のほうはなんと朝の3時くらいにおきて市役所で仕事をしてきたという。
結婚式の準備とかもしているのに
そんな忙しい中泊めてもらって本当に感謝しています。
二人とも大学時代4年間ほぼ一緒にいたので、
会えば当時の関係にいきなり戻れるのがうれしいし、本当に心が和む。
朝ごはんをだらだら3人で食べていると、なんとも言えず、平安だった。
※ ※ ※
その日の午後16時、僕たちはチャリとともに米沢街道の道の駅に居た。
当初の計画では、一日山形に滞在するつもりだったし肉体的にも1日休息が必要だろうと思っていた。
ただ、帰りは絶対に行きとは違うルートで帰りたかった。
つまり山形からまわって新潟に出て、群馬から東京に行くルートになる。
しかしいざそのルートをじっと吟味して考えてみると、時間が足らないのだ。
峠は福島から行くよりもより険しくなるし、まず山形から新潟に入るまでがかなり長い。
つまり、今日にでも出発しないと間に合わない。
全行程を一週間でまわるつもりだったし、その次の日には予定が入っていたので長居はできない。
冨樫(主人)は新潟の玄関口の新発田というところまでならば夜に車を出して送ってくれるという。
そこまでなら車でそんなに時間がかからないからだという。
申し訳ないが、そこまでの峠を車で送ってもらえないとたぶんたどり着けないだろう。
しかし、グーグルマップで検索をかけると新発田までもかなりの距離だった。
今日は日曜日なので、まっとうな仕事をしている二人は明日出勤だ。
つまり、車を出してもらうなら今日しかない。
今日遊びほうけるという選択肢もある。
そうなると自力で3日のうちに帰るのは不可能だから、宅急便で自転車を送り、僕は新幹線で帰る、ということになる。
そうなると後二日も二人と遊んでいられる。
せっかくだから二人とはもっと遊んでいきたい。
体調も(かなり)思わしくないし。
お金はかかるけど自転車を東京まで送ってしまうこともできる。
そうすればもっとだらだらできる。
むしろ自転車なら3日の道も、新幹線ならたった数時間の旅なのだから。
まだまだし足りない話がたくさんある。
このまま、ここで、旅を終わらせてしまおうか。
でも僕は、何故か、あんな思いをつい昨日までしていたのに、もう走り出したかった。
旅に出なきゃ
僕は二人に「ドライブに行こう」と提案し、新潟まで、今すぐに行こうと促した。
せめて車中で、したりない話をたくさんしておこうと思った。
目的地だった彼らの家をまるで中継地点みたいに使ってしまった。
でも彼らは全然そんなこと気にしない様子で、自転車を後ろに積んでくれた。
本当に本当にありがとう。
なんでそうまでして僕は流れていたいのだろう。
理屈ではないのだな。
僕は到着して次の日の昼に、もう旅に出ていた。
※ ※ ※
結局夫妻は新潟駅まで僕を送ってくれた。
出発したのが午後13時で、到着が17時。
車でさえそんな時間がかかるのだから、自転車だとやはり一日だろう。
駅前でご飯を食べ、明日も朝早い夫妻はそのまま帰るという。
車中ではたくさん話をしたが、やっぱりしたりない。
別れるときになって話したいことがたくさん思い出されるのは何でなんだろう?
今生の別れではないし、すぐまた今週末に東京に来る。
でもなんでだかいつもとは違う寂しさに包まれていた。
なんでこんな馬鹿みたいなことに付き合ってくれるんだろう。
徹頭徹尾、なんの意味もない僕のこのわがままに。
本当にありがとう。
※ ※ ※
帰りの計画。
新潟は広い。というか僕は東京の感覚で市とか町とかの広さを予想していたので、
栃木や福島では手痛いしっぺ返しをくらっていた。
地方都市の「となりまち」は時として絶望的なくらい遠いことがある。
東京都を抜けるのは恐ろしく簡単だったが、
栃木を抜けるのは相当大変だった。
だからおそらく全力を出しても新潟を抜けるには2日かかるだろうと予想。
今日の夜のうちに距離を稼いで明日は峠の真下辺りまで行く。
そして次の日に峠を越えて群馬県に入り、そこから最終日は東京を目指す。
そう計画していた。
ご飯を食べて夜19時、
僕は新潟駅を出発した。
新潟はどこまでもどこまでも田んぼが続く。
かえるの声がいつまでもついてくる。
山と違って、平野の闇はあつかましくない。
今晩までにもしも長岡までいけたらかなり楽になるはずだった。
しかし新潟駅から70キロくらいあるのでまあこの時間からだと難しい。
ま、その辺も適当に構えて。
いけるところまでいっちゃえとペダルを漕ぎ出す。
ところがどうしたことだろう。
驚くほど、疲れが取れている。
ぐんぐん進む。
まだ、夫妻の家のぬくもりが体の周りにもやの様に霞んでいる気がする。
暖かい、暖かい空気だ。
ああ、そうか、彼らは僕の力になったんだ
彼らが居るってだけで僕は元気になれたんだ。
いい友達をもったなぁ
胸に迫るって、こういうことなんだ。
ちょっと泣いた。
※ ※ ※
国道8号をひたすら南下。
ずっと平野が続いたということもあって、なんとそこから70キロの長岡まで着いてしまった。
長岡はいかにも地方都市の繁華街といった風情で、駅前は栄えていた。
しかし、意外と漫画喫茶がない。
せっかく来た道をかなり戻らないといけない。
経費はなるべく削減したかったし、自分への挑戦もこめて漫画喫茶に泊まろうと考えていたのに。
しかたなく、駅前の恐ろしく安いビジネスホテルに泊まる(一泊3500円)
確かに室内は恐ろしく狭く、アメニティもない。
徹底的なコスト削減をしている感があった。
24時、シャワーを両膝に当てながらこれからのルートを考える。
今日長岡まで着いたとはいえ、逆にペース配分が難しい。
峠の途中の猿ヶ京温泉というところまで明日は行ってみようかと考えた。
もう一回くらいせっかくだから温泉に入りたい。
うーーーーーん
ま、峠しだいかな。
でも予約はしておいたほうが安心だろうか。
うーーーーーーーーん
面倒だ。
行ってみりゃわかるだろう。
ホテル入れなかったらまた野宿しよ。
昨日ようやく腰を落ち着けたと思ったのに、
もう僕は違う場所で寝ている。
山形の冨樫夫妻に僕はもう一度感謝をしつつ、眠りについた。
明日は、また峠だ。
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