2012-05-20

東北妄想旅行withママチャリ 2日目

結局24時間営業のネットカフェに滑り込んだ。

でも起きたときに僕は軽い肩倒立みたいな形になっていた。

どういう状態かというと、本来足を置く台みたいなのに頭をおいて

背もたれに足を投げ出していた。

これは昨夜薄れゆく意識の中で

「心臓よりも高い位置に足を置いておいたほうが疲労がとれる」

と思ったからだ。

あと、壁一面に昨日で濡れた衣服がかけてあってやたら部屋が蒸れている。

その状態で不覚にも9時くらいまで眠ってしまった。

ただ、起きた時点でまだ外は雨だったので

あったかいスープなどを飲みながら時間をつぶし、

雨が上がってから出発したのがすでに11時。ま微妙に上がってなかったけど。

朝ごはんは前日に餃子屋さんでもらったお菓子と、道の駅で買っておいたトマト。

でもトマトはその存在を完全に忘れ去っていたためかばんの中でぐっちゃぐちゃになってた。

「でも、味、成分その他は変らないよね」

と思って食った。ビタミンビタミン。

今日の予定は那須塩原の温泉に入ることと、福島まで行くこと。

当初の予定では今日にも山形に着く予定だったが

昨日の平地での走行距離と、また県境の峠越えなども考慮して福島で一泊することにした。

足の疲労は思ったほどでもない。

さて今日も出発だ。目指せ福島。


※      ※      ※

今日もただただひたすらに国道4号を北上。

ただ、ちょっと高低差が出てきた。

これは辛い。立ちこぎで無理やり上る。

そして寒い。気温が12度くらいしかない。これって東北の平均?

そしてちょっと走って気付いた。

福島まで143キロ。

これは那須塩原に寄っている暇はないのでは?

昨日の限界で140キロくらいなのだから、むしろ福島にたどり着くのも難しい。

計画変更。福島周辺で、かつ温泉に入れる場所を探す。

ちょうど岳温泉という温泉郷の「扇や」という旅館が空いていた。

値段も手ごろで、温泉もある。しかもチェックインが21時までと遅い。

早速電話をして予約。

昨日風呂に入ってないのでなにが何でも温泉に入るぞ!と心に決める。


場所をちゃんと調べなかったこと



これ短慮。



あとで泣きを見ることになる。



※      ※      ※

昼食に、もう中華料理屋は嫌だと思ってえり好みする。

もう胃があれまくっているのである。

ちょうど定食屋がみつかる。

入ると客がおれしかいない。

食ってみて分かった。

まずいからーーー。



※       ※       ※

街道沿いの変な店。

ハム

ロース 

カルビ

バーコン


バーコン!?

「あの」

「ああい?」おばちゃん

「これって・・・」

「あベーコンだよ」

「はあ」

「ときどきねえ、それだけ聞きに来て帰る奴がいるんだよまったく」

じゃあ

直せば良いのに。



※     ※     ※

変な地名。

大玉

新大玉



元新大玉



うるせえよ!




※      ※      ※

ただひたすら国道4号を北上する。

しかし、福島に入ってすぐ、白河のあたりが非常に辛い。

一つの峠だったのだ。

強烈なアップダウンの連続で嫌がおうにも体力が奪われる。

また、雨だった。

10年もののカッパはほとんど雨を防がない。

体は冷えるし、先の見えない峠で余計疲れる。

もう、絶対に温泉に入ることだけが望みだった。

那須塩原の温泉に入っている暇などやはりなかったのだ。

それどころか、福島にさえたどりつけるかさえ自信がなくなってきた。



体が動かない。


なのに全然目的地には着かない。



自転車は借り物だから放置していくわけにも行かない。



なんでこんなことやってるんだろう。

なんでこんなことやってるんだろう。


もし、あとに引ける状況だったら引いていただろう。

ただ、行かなきゃ行けないから行くってそれだけだった。



※      ※      ※

午後20時。

目的地の「曲がり角」までのこり5~6㌔のところで少し余裕が出た。

峠越えでなんか勘違いを起こした僕の足の筋肉は、

普通の道で必要以上のポテンシャルを発揮して進んでいた。

もう脂っこい食べ物は嫌だと(結局定食はしょうが焼き定食だった。まずかった)

思っていた僕に飛び込んできたフレーズ

「サラダバー」

それだああ!

生野菜だああ!

何のお店か分からないがひとまず駆け込む。

とんかつのお店だったがなんと一つ頼めば

サラダバー、ごはん、お味噌汁、お惣菜、漬物、ゼリー

全て食べ放題である。(チェーン店だったが名前失念)

僕はメニューが来る前にサラダを二杯まるまる平らげた。

メインのとんかつは4切れくらいだったが、ご飯を2杯、お味噌汁を3杯、

サラダをさらに2皿、お惣菜を3皿、さらにジュースを4杯飲んだ。

やはり食べる量が尋常ではなく増えている。



店員の太ったお姉さんとちょっとだけ話しをする。

彼女の店でのあだ名は「珍獣」らしい。

一目見た瞬間から明るくてとても好感の持てる人だと思った。

福島弁は温かみがあるので話しているだけで和んでくる。

「私はね、そんなたび無理ですよ。ダメなんですよねぇ。自分になんか・・えー」

「負荷?」

「そう、負荷をかけるのが。すごいと思いますよお」

見送りに着てくれた。なんかでっかいぬいぐるみとともに。

「えっと、これは・・・?」

「クマです」

「いや、それは見れば分かるんですけど」

「ほら、応援してますよお。『おい、がんばってくれい』」

「あ、本当だ」

「ねえ、」

「じゃ、いってきます」

「はい。頑張ってください」

たぶんお姉さんのがずっとすごいよこんな旅に出なくても。すごい作品創らなくても。

国を変えなくても。

触れた人みんなに元気になってもらうことがすごく好きで

それをなんの恥ずかしげもなくやってしまうほうが。

きっと彼女自身にもいろんなことは沢山あるのだろうけど。

そして僕が見たのはほんの一面だろうけど。

でもそのときの疲れきった僕には本当にありがたかった。

決して名前が語り継がれることはないのだろうけど

偉人だろう。


※      ※      ※

人はなぜ飯を食うか。

エネルギーを得るためだ。

疲れたら腹が減る。だから補給する。

言葉にすると陳腐だけれど

このことを肉感として知るということができたのは大きい。



※      ※      ※

ようやく今日の温泉までの県道の曲がり角に来た。

このときすでに21時47分。

チェックインは21時までだったけど、電話をしといたから大丈夫。

「岳温泉   ここから10キロ」



ん?


10キロか。


遠いな。あと一時間くらいかかるじゃん。


この曲がり角にさえ来ればあとは楽勝だと思っていたのに

まあ、でもあとちょっとじゃん!

温泉だ温泉!



※      ※      ※

道が、暗い。

1メートル先が見えない。

ねっとりとした、闇。

明かりは本当に自転車に付いたライトだけ。

こわい。

しかもここにきて今までで最大のアップダウン。


辛い。でも止まれない。ライトが消える。こわい。でももう辛い。こわい。



一漕ぎごとに、ひざが「ぺり」という音を立てる。

足首もひざも、本当に動かないから、腹筋を使って、全体重をかけて、こぐ。

たまに影が横切る。自分か。誰かいるのか。

道をはずれているんじゃないか。

車くらい旅館が出してくれればいいのに。

これだけ遅れてるんだから車くらい出してくれればいいのに。

自転車で来ているのが分かっているんだから車くらい。

車くらい。

車くらい。

なんで出してくれないんだ。あたまおかしいんじゃないか。

今考えるとどうしようもない想念ばかりが胸をよぎる。

本当に本当に長かった。おそらく今までで一番辛かった時間だった。

目印のファミリーマートが見えた瞬間には

「つ、ついたあぁぁ」

という声が漏れた。自分でもびっくりするくらいの情けない声だった。

でも腹のそこから出た。

旅館に着くと、チェックイン時間から2時間もおくれたのに

とても親切に対応してくれた。

朦朧とした意識の中、温泉に入り、

部屋に着いた。



「ふ、布団だぁあぁ」



貪った。

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