2012-05-24

東北妄想旅行withママチャリ 最終日

朝の七時半に目が覚めた。

いつものようにシャワーで足をほぐしながらルートを確認。

昨日でだいぶ距離を稼いだので、今日はかなり楽に帰れるはずだ。

今まで酷使してきた足を入念に揉みほぐした。昨日は終盤膝が無視できないくらい痛くなっていたし。

朝食付きだということで下に降りたら、意外にもご飯食だった。

でもやはりサラダを大量に食べる。

食事は、ホテルのロビーの一角にスペースが簡単に設けられていて、テレビもあった。

そこで本当に久しぶりに朝ドラを見た。

こうやって少しづつ日常に帰っていくのだなぁと思う。

部屋に帰って、身支度をして、出発する。

出発する前に鏡を見ると、一週間前に比べてずいぶんと日焼けをした。

髪の毛の色も黒がだいぶ落ちてきたし、ピアスしてるし、

途中寒さから購入した590円の白いパーカーを着ると、完全に地元のヤンキーだ。


そういえば、咳と鼻水が止まらないので最近は濡れタオルをおでこに乗せて寝ている。

顔が日焼けで熱を持っているので、これは二重に気持ちがいい。

今日もひたすら17号を南下。

都市部に入るとちょっと道が複雑になってくるが、迷わないように大きな道を選ぶつもりだ。

なんにしても、今日が最終日。

怪我だけは避けなくては。





※            ※            ※




本日は雨の予報である。だからあらかじめカッパを着て出発した。

その予想通り、出発して1時間ほどでさらさらと雨が降り始めた。

だが、予想外。



膝が痛い。




昨日は終盤でひどくなったが、今日になると昨日よりもっとひどくなっている。



筋肉痛ならば我慢ができるが、どうももうちょっと厄介なもののようだ。

ほぼこいでいる時間の8割を立ちこぎで過ごす僕にとっては膝の痛みは

致命傷だ。

しかたなく主に座ってこぐことにする。

基本的に平野なのでまだ良かったが、これで峠だったら地獄だったろう。

そうして、田舎ではありえなかった障害がやはり都市部では出てくる。



それは





おばあちゃんだ。






たぶんチリンチリンが聞こえにくいのだろう。

なかなかどいてくれない。

車道を走ろうとするも国道沿いなので車の往来が激しく思い切って出られない。

脇を歩いていたと思ったらいきなり道の中央部に切り込んでくる

バルセロナのシャビばりのパフォーマンスを披露。

その度に急制動。膝にダメージが蓄積されてくる。

雨だというのによくであるくなぁ。



おばあちゃんはいるのに。

おじいちゃんにはなかなか出会わない。

地球上に男と女はほぼ同数のはずなのに。



おばあちゃんばっかりと出会うのはなぜ?




※         ※         ※




    チリンチリン

おばちゃん「角谷さんね、それはきちんと言わなくちゃだめよ」

角谷さん「そうねぇ。でもきちんと言うっていってもね」

    チリンチリン

おばちゃん「私だってそりゃね、まあ、責任はとれないわよ」

角谷さん「責任って何よ」

おばちゃん「いや、責任ていうかね」

角谷さん「私だってせきに・・・」

    チリンチリン

角谷さん「んとろうなんて、とってもらおうなんてそんなこと考えちゃいないわよ」

おばちゃん「あっはっは」

    チリンチリン

角谷さん「あっはっは」

おばちゃん「責任てなによねぇ?」

角谷さん「ねえ?」

    チリンチリン

角谷さん「あっはっは」

おばちゃん「あっはっは」

    チリンチリン

おばちゃん「あっはっは」

角谷さん「あっはっは」

僕「あの、すいません」

角谷さん「え、ああ」

おばちゃん「あ、ごめんなさいね」





そういって、角谷さんは右に



おばちゃんは左によけました。




クロス







道幅変わってねえからあああああああ





※          ※          ※




17号のバイパスに入ると、ただひたすらに道が続くだけで

周りには店もなにもなくなってくる。

道の両脇には草地が広がるばかりなので、雨では休むこともできない。

バイパス沿いは田舎よりも飲み物その他を補給するのが難しい。

結局8時30分に出発して、12時あたりまで休憩が一度も取れなかった。

そのせいなのか右膝の痛みはよりシリアスなものになっていて

とうとうこらえきれずに国道を離れてガストに入った。



どうしてもフルーツパフェが食べたかったのに、

注文したのが和菓子で、どうもその辺の紆余曲折が思い出せない。

運ばれてきたスウィーツを前に一人で首をかしげる。



この頃になるともう自転車を降りて歩くのも辛くなってきていた。

椅子に墜落するように座りながら、ぼんやりと筋肉の回復を待つ。


雨はしつこくしつこく降りしきり、確実に体温を奪っていく。

昨日までだったら立ちこぎで平野部など楽に走行していたのに

膝の痛みからそれができない。

そのために予想以上にペースが遅かった。


もう東京は目前だというのに、たどりつかない。

もはや靴は歩いたらちゃぷちゃぷ言うほど。


雨にうたれる、というのは想像以上に気分を沈ませるものだった。

もしかしたら精神的にはこの旅の中で最終日が一番辛かったかもしれない。






※         ※         ※




雨に打たれると、体が冷える。

冷えると、トイレが近くなる。



しかし、こんなに都市部だというのになかなかコンビニもスーパーもない。

冷えるし、焦るし、膝は痛いし、小さい路地から車は急に出てくるし、

とうとうガソリンスタンドの入口で転倒した。

とっさに出した膝がまったく体重を支えきれずに顔面を強打。



雨はやまない。



何が起こっても、


しとしと、しとしと



しとしと、しとしと




やまない





※          ※          ※




東京に入ってからも実に長かった。

「すぐだ」という先入観からだろうか、なかなか着かない印象があった。

それと、意外にも都市部の方がアップダウンが激しいこともわかった。

立ちこぎは右膝が使えないため、主に左膝を重点的に使う。

そうしていたらこんどは左膝も痛くなってきた。

もはや座りこぎでも痛みは続いている状態で、坂や、信号で止まるたびにストレッチをする。

それでも間に合わない。

一度こぐたびに



きり




と右膝が鳴る。

つぎの一こぎで



ぎり




と左膝が鳴る。

日が落ちると、車の往来はより激しくなり、人も多くなる。

余計にスピードが落ちる。

顔を歪めながら、フードを目深にかぶった男がひた走る。

雨に打たれるというのは実際的なダメージ以上に、効いてくる。



自分がみじめに思えてしまうのだ。

このみじめさは強敵だ。

じょじょに体を蝕んで、活力をそいでしまう。

必死に考えないようにする。自分の姿を脳裏に描かないようにする。


それでも前に進まないと終わらない。




実にシンプル。




東京都に入ったというのに

こんなに晴れやかでない県境越えは初めてだった。




※         ※          ※


夜の20時。


吉祥寺に帰って来た。




いつの間にか雨が小降りになっている。




僕はフードを取ってよく街に目を凝らした。



現実感がない。


自分は本当に、ここに、いるだろうか?

もうひとりの自分は、今も、

秋田あたりを走っているのではないだろうか。

実際にそういう自分が存在しているような気がしていた。

なんだかふわふわしている。

夢の中にいるようだ。



しかし、実に東京は人が多い。

こんなに狭い場所に、こんなにもたくさんの人が、

それぞれの欲望を持って暮らしている。

こんな目の回りそうな環境の中で僕は普段生活していたのか。

人、人、人。

一体なんの目的があってここにいるのだろうか。





※         ※          ※




吉祥寺のレンタサイクルのおじさんに自転車を返す。

随分酷使したなぁ。

最後の最後まで、停車させる時のカシャンってやつがうまくいかなかった。

彼とも偶然出会ったのだが、まさかこんな目にあうとも思わなかったろう。

でも、彼にとっても初めての経験だったろう。


誰かが新車で買って、たくさん使われて、道に捨てられて、それでも拾われて、

スクラップにされずにレンタサイクルとなった。

そんで僕と山形まで行ったんだ。

愛着なんて今まで全く感じなかったけど、僕はおっさんに頼んで一緒に写真を撮ってもらった。



ありがとうね。

もうたぶん僕が乗ることは一生ないだろう。





※         ※         ※



電車に乗っている時も、まだ現実感がなかった。

今になって雨に打たれていた震えが止まらない。



そして、都市で生きることの圧倒的な不自由さを感じる。

もちろん旅の途中もたくさん不自由があった。

寝る場所は見つからないし、

いきたいところにいくにもものすごく時間かかるし

雨を遮る屋根がない。飲み物がない。病院がない。時には布団がない。


でも、手足を伸ばしたり、意味もなく笑ったり、深く考えたりする自由はあった。

限りなくあった。


それが満員の電車では一切許されない。

たった15センチ先にあるつり革すら掴めない。

自転車ならば半日かかる距離を一時間で進みながら、

車両にいっぱいの不自由を抱えて電車は毎日走る。



毎日。




深く、疲れた。







※           ※           ※






死んだように眠る。

協力してくれた人たちや、出会った人たちひとりひとりを思い出しながら。







※            ※           ※



この日記はネット環境がなかなかないことと

まあ疲れきって眠ってしまったこともなどもあって、

清書は23日と24日にまとめてしてしまった。

ただ、下書きは一応携帯にその都度その都度書いておいたので助かった。

今回は旅とはいっても、たった六日間。

それもほぼ国道沿いだったから、父に言わせるとそこまで景色に変化はなかったらしい。

確かに、まったく脇道にそれる余裕はなかった。

観光も全くしなかった。

ただ、ただ、ひたすらに目的地にむかって前進しただけだ。


今回は新潟まで車で送ってもらった分を抜いて、往復で約700キロ。

平均で自転車をこいでいた時間は13時間。

でも、宿泊代などは節約したので費用は2万くらいですんだだろうか?

レンタサイクルも一日200円だったし。

まあでも膝の状態を考えるともっと休憩は取るべきだった。

それにやはり一日早く帰ってきてよかった。

足の状態を考えるともう一日は厳しかったろう。


次は、県道だけで

行ってみようか。

やっぱりママチャリで。

もうちょっと休みを取って。

もっともっとより困難になるだろうけど。


もう次の旅に出たくなっている。

あんな思いしたのになぁ。

でもアホ旅行はこれからもしていきたいな。


とにかく、





やったぜ!と思っています。

1 件のコメント:

ZONO さんのコメント...

壮絶な旅でしたね…リハやWSごときで疲れたといえないな、もう…。
WSおまちしてまーす