ついに始まりました。
かねてより計画していて、昨日あたりから(なんかもうやんなくて良いんじゃないか?)
なんて思っていたあの計画です。
「東北妄想旅行」
それは山形に住む友人宅(場所はうろ覚え)に
東北各地をまわりながら各地で妄想しながら向かうというたびである。
ついおととい母さんに
「あんた旅行行くの?」
と聞かれ、反射的に
「明日から行ってくる」
と答えたのがきっかけです。
なんも準備してませんでした。まず電車で行くのか徒歩で行くのかすら決めていませんでした。
ただ聞かれたから反射的に答えただけで、きっかけなんて案外そんなもんなのかもしれません。
僕は本当に優柔不断で、なんらかきっかけがないと本当に一人で何もできないやつです。
だからこそ、一度やり始めたらもう「後に引けなくなる状況」に自分を追い込むのです。
おとといの時点で僕に「後に引けない状況に追い込もう」という意識はあったのでしょうか?
たぶんなかったと思います。
ただ、折々でどうにも短慮なところのある自分は結果的にそうなってしまうことが多いのです。
実はすごく優柔不断なくせに短慮だからなんか突拍子もないことを時々してしまうのでしょう。
まあとにかく、
今僕は結果的に引けない状況にいます。
なにがなんでもやりきるしかないのです。
というか引くも地獄、行くも地獄といったあたりです。
だっていまママチャリで宇都宮に来てるのですから。
※ ※ ※
僕の移動方法はママチャリに決めた。
理由はやっぱり簡単。歩くと時間がかかりすぎるし、京都にいたとき自転車がすごい快適だったから。電車だとじぶんにかかる負荷が少なすぎる。
というわけで僕は5月17日の12時、吉祥寺でレンタサイクルに行ってママチャリを借りた。
これ、レンタサイクルって書いてあるけど区が放置自転車を貸してるだけ。
だからもうブレーキは利かないわ車体は曲がってるわのひどいもの。
一応ギアはついてるけど5回転くらいしないと変わってくれない。
これで山形に行くのは無理なんじゃないか・・・?と思うがそこが僕の短慮なところ。
「これで峠を越えるのは難しいなぁ。・・・?いや、難しいのかな??あ、そもそも峠はあるのかな?でもギアついてるしいけるんじゃないのかな・・。うーん、ていうかやったことないんだからわかんないじゃん。つらいかどうか。まあやってみりゃわかるか。うん、やってみりゃわかるわ。これにしちゃおう」
ルートとしてはまず吉祥寺を出発して、外環道に出る。
そこから東北自動車道の下道をたどってひとまず山形までたどり着こうと思った。
さあ、なんか何が待ち受けるのかよくわからんけど出発だ。
まあ良いよ。いっちゃえいっちゃえ!
※ ※ ※
吉祥寺を出発してすぐ、石神井のあたりである。
前方にスーツを着たミスターオクレの若いころみたいな人が汗を拭きながら歩いていた。
僕がオクレの左脇をのんびりと通過しようとしたところ、不思議なことが起こった。
オクレが僕の横にずっといる。
・・・・?
え、なんでダッシュしてるのオクレ?
なんでかはよくわからないがオクレヤングは僕の自転車に抜かされまいとダッシュをしている。
狭い道なので電信柱とかがあると思わずオクレヤングを前に出してしまう。
なぜかかれは抜かされたくないらしい。
しかもこっちを見ない。
わざと腕時計を見たりして偽装工作までしている。
そのうち絶対なってない携帯をとりだして「はい、いま急いで向かっています」とか言い出している。
どこのお得意様だ。
ていうかなんなんだよ!ガキか!ついてくんな!
僕は非情にもスピードを上げて彼を抜き去ることにした。
そして抜き去る瞬間かれは確かに
「チィィ!」
と言った。
オクレは汗だくだった。僕もちょっと疲れた。
※ ※ ※
外環道に出たはいいけど、そのあとちょっと迷った。
地図にある場所と実際の標識の地名が違うところもあり、旅慣れしてない自分が悪いのだ。
でもさ、あのせんべいで有名な「草加」くらいは標識に書いてよ。
「原町3丁目」じゃねえよ。地元民に重点を置きすぎの看板を作ってんじゃねえ!
僕のなかで埼玉は「クソ埼玉」のレッテルを貼られることとなった。
結局東北自動車道に沿うかたちの国道4号線をひたすら北上することにした。
※ ※ ※
宇都宮まで86km
その時点ですでに16時。たどり着ける距離なのか検討もつかないが、走り出す。
いちおう今日の目標は栃木まで行くことだった。
ただ、ただ、ひたすらに一本道。
上り勾配、下り勾配。まれに側道が消えることがあると反対車線にまわる。
ただ、ただ、ひたすらに、こぐ。
春日部を過ぎたあたりから、あたりは田園風景が広がるばかり。
こぐ、こぐ、こぐ。
時折みえる看板で、宇都宮までの距離が1kmずつ減っていく。
本当にすこしづつ、距離は縮まっていく。
でもただ、ただ、こぐ。
途中で利根川の雄大な流れに目を奪われる。
川というのは怖いもんだ。
あれだけ大きな川だと、ひとつの流れの中に実はたくさんの小さな流れが実はある。
何かの加減で、逆行したり、左に寄れたり、よどんだり。
でもそのすべてが「もちゃっ」という音とともに全体の大きな流れの中に飲み込まれる。
夕暮れだった。
まだ宇都宮までは50キロある。
日が暮れると気温がぐっと下がってきた。
友人からの報告で福島は雨だということだったが、なんとも雲行きが怪しく、不安だ。
田園風景は続く。
かえるの声が規則的に響く。
タイヤが時折はじく小石が闇の中に消えていく。
もう妄想もクソもあったものではない。
気づいたのだが、筋肉は限界に近づくと逆にその収縮運動を止められなくなる。
たまに自販機によろうとすると膝が笑ってまっすぐに歩けなくなる。
歌を歌って気分を変えたりした。
最後のほうはAKBの「エブリデイ カチューシャ」になっていた。
そのあたりでようやく
宇都宮市街地
という表示が出た。
今日は何が何でも餃子を食う!!
そのときすでに20時30分。
あらかじめ目星をつけておいた餃子屋は23時まで。
それは営業時間か!そうしたらL.Oは22時30分か!
残り23キロ。
間に合うのか!!!
※ ※ ※
間に合いませんでした。
宇都宮市街地に着いたのがぎりぎり22時30分だったけど、そっからまあまよった。
5~6回コンビニの店員さんに道を聞いたけど、
気が立っているのもあったし、疲れきっているので判断力が鈍っていた。
とうとう23時になり、もはや自転車をこぐ気力もなくしとぼとぼ歩いていた。
そしたら頭に何かごつっとあたった。
なんだろうと思って下を見ると無数の白い粒。雷鳴。一陣の風。
雹だ
「いやいやいやいや」
思わず天に向かって突っ込む。
そのとたんにバケツをひっくり返してなんかじゃおさまらない
剣山のような雨が降り始めた。
僕はあわててトンネルにもぐりこみ、合羽を着こんだ。
そうとうな土砂降りと落雷で、しばらくは動けそうにない。
しかし、僕の中からは不思議なパワーが沸いていた。
今日は絶対野宿してやる。
こんなことでへこたれていてたまるか。最初に決めたことは何が何でもやりぬくのだ。
そこで、無駄だとは思いつつも23時以降でも入店可能な餃子屋を食べログで探す。
あった。
しかも駅から程近い。
僕はあめが小ぶりになるのを待ってから、ようやく、ようやく餃子にありついた。
僕が頼んだのは餃子とマーボー丼だったが、どちらも相当なボリュームで食べきれないかと最初は思った。
でも、僕はあんなにおいしい餃子を始めて食べた。
まるで大学生のころのような食欲で僕は二つを軽々と食べきってしまった。
一口食べるごとに、それがそのまま筋肉になる気がした。
酢をいっぱいかけた。
暖かかった。
帰り際おばさんに自転車で東京から来たことを告げると、なんとお菓子を袋いっぱいにつめて渡してくれた。
涙が出るかと思った。
「がんばってね」
はい。
※ ※ ※
あの有名紳士服店「AOKI」の軒下で野宿をしていると、懐中電灯を当てられた。
「もしもし」
あ、警官だ。
またしても短慮。
そうだよね、野宿してたら警官に見とがめられるんだよね。
アリと目が合った。
世界の王はみな自分を人よりも高い位置に立たせようとした。
乞食は、庶民は、常に地べたを這いずり回った。
空間的な高さは、そのまま自尊心の高さなのだと思った。ぼんやり。
寒い。体が固い。
就寝が1時。現在3時20分。
また雨が降っている。
「君はなんだい?旅行者かい?」
「はあ、まあ」
「家出とかじゃないよね?」
あたらずとも遠からず。苦笑。
「一応免許証見せてくれる?照会するから」
警官にねほりはほり聞かれ、まあたいした理由もなくママチャリで山形に行こうというのも変な話なのでなかなかうまく話がかみ合わない。
「えーと、あの、照会ってまだやってるんですか?」
「いや、もう終わってるよ」
「え、じゃあ・・えー・・?」
「いや、行くところ無いとかわいそうじゃん」
そうは言っても何もしようとしない。5キロほど先にネットカフェが「あったかもしれない」
というようなことはいってたかな。
ひとまずそこに行きますとだけ言って帰ってもらった。
この雨の中、あるかもわからないネットカフェに深夜歩かせることのほうが
かわいそうだということに彼らは想いが及ばないのだろうか。
まあそれは良い。だって自分で選んだことだし、確かに不法侵入はよくない。
これは僕の落ち度だ。
※ ※ ※
運よくネットカフェがあったので、そこにつくや否や
靴下を脱いでバタンキュー。
今日は福島までひとまず行こう!
トンネルが自転車が通れるかわからないのでひとまず情報を収集する。
あと、那須塩原の温泉には何が何でも入るぞ!!
山形到着はあさってかな?宿は取れるかなぁ?峠は越えられるかな?
まあ、大丈夫だって
いっちゃえいっちゃえ。
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