2009-04-28

向こう側で笑っている顔のない男を

現在伊藤キムさんというコンテンポラリーダンサーのカンパニー

「輝く未来」の稽古にお邪魔させてもらっている。

何故かと言うと、

今年の8月にあざみ野で行なわれる中高生たちと伊藤キムさんのダンス公演のアシスタントに選ばれたからだ。

選ばれたと言うか、

男性の応募者が僕しかいなかったからだ。

「じゃあ良いや。もう決めちゃおう。お願いします」

というラッキーな具合だったのである。

二回ほど中高生たちとワークショップをした後

「輝く未来の稽古に参加したら?」

という具合で邪魔させてもらっている。

巨大な実力を持ったプロと

週に二回も一緒に踊れている現在は

ちょっと夢のようだ。



でも、必死だ。

毎回稽古のたびに自分の弱さを痛感している。

絶望的なくらい不自由な自分の身体と、

隙さえあればすぐに楽な方向へ行きたがる頭と、

双子の出来損ないの嬰児を抱えて、

僕の中にいる

毎回ちょっとだけ顔を見せる

天使のような顔と青い空を頂いたあの世界を背負った奴らは

グビグビとその居場所を奪われて、

びっちゃりと醜い顔をして死んでしまって、

後に残ったのはなんだか食べたら苦い空っぽのでも真空じゃない、

そんな空洞が残っていらいらして、

天使が死んだ後の墓には、

また甦ってくるような余地を残しているその穴に、

またぱさぱさの埃をばっこりとして埋めてしまうのだ。


自分はとても面倒くさがりやだから、

キツイ場所にいないと自分を高めようとしない。

締め切りがないと脚本も何も書かない。

自分で選んだ道のくせに、

もう安寧としようとしている自分に最近気付く。

稽古場の空気にも慣れて、人にも慣れて、

ただ受け身でその日をやり過ごしてたんじゃ

なんの為にキツイ場所に身を投じたんだか。

やらなくちゃいけないことは目の前に山ほどあるのに、

何も言われないからってなんとなく楽しく過ごせるからって、

それでそんな日々を過ごすならやめちまえよ。

そこで終わりたくないから巨大な力のそばに身を置くことに決めたはずだ。

友達がいるからとかじゃなくて、自分と似た臭いがあるからじゃなくて、

楽しむためとかじゃなくて、選んだ。

そう思って

今も僕は股関節をゴリゴリ言わしている。

明日も自主稽古だ。


頭でこねくり回そうとする自分とか

恥ずかしがる自分とか

格好良く見せようとする自分とか

ただ盲目になろうとする自分とか

追いつけないぐらい身体を動かして行こう。

向こう側になんかちらちら顔が見える。

自分を全部振り切って、

そいつの顔をひっかきに行こう。

2009-04-20

戦場で拾った弾丸と僕の胸に今も残ってる弾丸をじっと見つめてみる

下北沢でのちょっとした芝居が終わった。

見に来てくれた人たちには本当に感謝しています。

大した企画じゃないのに、大学時代所属していたサークルの後輩たちは

思いのほかたくさん来てくれてとてもびっくりした。

と、共に嬉しかった。

本当にありがとう。


今回は稽古場は全て、本番の舞台で行なわれた。

「スローコメディー」というレストランだか飲み屋で、

そこにあるベンチの周り2メートルくらいが僕らの舞台だった。

当然店なので稽古をしているとお客さんが入ってくる。

そうなると稽古はお開きで、そこは稽古場から店になる。

色んな人が入ってきた。そして思ったのは、街それぞれに風土や礼儀があって

僕は下北沢のそれには合わないらしいという事だった。

下北沢に住んでいる人は(お客さんも下北在住の人が多かった)

皆オシャレでたぶんそれなりの社会的な地位があって

仕事以外にたぶん2,3個の趣味があって、

人間関係のネットワークもそこここに多層的に存在しているのだと思う。

そしてそれらと上手く折り合いをつけながら、でもあくまで下北沢という街に誇りを持っていそうだ。

だから彼らはどんな人間ともフラットでオープンに接してくる。

それに対して僕はそんなことができない。

「完全な上辺」での付き合いか「相手の最深部までなだれこむか」しかできない。

微妙に深いところまで入ってまた次の人間と話し出す

っていうのができない。

朝までの飲み会でも

一人の人間と4~5時間喋ってるか

うまく集団の騒ぎに紛れて時間を潰すか、二言三言の言葉を交わすのを延々くり返すか

そのどちらかな気がする。

あくまでも自分の安全な領域はキープしつつ、

でも何かを相手から得たいと(それは知識でも情報でもコネクションでも金でも自己陶酔でも)

微妙な距離感をとって相手の輪郭だけを捉えて

後は去っていく。

僕には寂しく感じる。

人と深く触れ合うことは基本的に痛みを伴うし、

リスクも大きい。

でも興味がないなら僕はあえて人と会話は絶対にしない。

今ある自分がとても不安定で崩れることは覚悟して人とは接するようにしている。

そう判断した人としか僕は喋れない。

そういう人に対しては僕は結構正直にひどいことを言ったりする。

最近僕が思うのは、

その人間のことを理解するのに時間と言うのはあんまり関係ないんじゃないかと言うことだ。

かつて僕には中学時代「親友」だと思っていた奴がいて、

四六時中一緒にいた。一緒に遊んだ。

夏休みの30日間、ただ彼のうちで一日パワプロ98’をやり続けた。

それが友達だと思っていた。

結局彼とは高校1年の時に絶交した。

(僕にとっては)信じられない裏切りにあったからだった。

何時間話しても、何年一緒にいても、何回一緒に飲み会に同席しても、

その人の事が分るってもんじゃない。

逆に今僕が参加しているダンスワークショップにいるある男とは

プライベートはお互い何も知らない。

年齢も、出身地も、好きなミュージシャンも、文学も、好きな食べ物も、

一言も話したことはない。

ただ、ダンスという一点でしか彼とは触れていない。

でも一緒に踊っているとき、僕は彼に全体的な信頼を置いている。

たった週に3時間の中で、僕はそれまであったこともないその男と

その男自身の言葉さえ必要ないくらいに

彼自身と触れ合っている気がする。

ダンスだけで、後は知らない。

それは果たして浅い付き合いなんだろうか?

2009-04-12

戦場の銃弾の代わりに日本では会話を拾ってみる

最近、「好きなものは?」と聞かれたら

「夕陽です」

と答えることにしている。

「あと、朝焼けも好きです」

と、言おうと思っているけど今のところ誰にも聞かれたことはない。

僕は夕陽を見るのが好きなので、バイトから帰る時の窓に映る夕陽は

首が痛くなる角度になっても眼を皿のようにしてみている。

犬の散歩をしていても彼女(メス)の意志は無視して20分くらいぼーっと見ている。

バイクに乗っていると事故りそうになる。

この夕陽と言うのはせっかちで

本当にきれいな時間帯はたぶん1分もないんじゃないだろうか。

しかも季節によってその時間帯はすぐに変化するし、

その時々で鮮やかな色彩も違うので

本当に破裂しそうなくらい美しい夕陽を見れるのはとても運が良い事だと思う。

ある日、僕は電車の帰り道にやっぱり夕陽を見ていた。

まあまあだった。

ふと、僕は後ろで立っている男女二人の会話を凄く注意して聞いてみた。

別に気になったからではなく、夕陽が沈んでしまったからやることがなかっただけだった。

女「でもー、何か、ただあいまいに笑った感じ」
男「えー、それ一番ひどくない?」(男は控えめな感じ)
女「ああ、ちょっと気を持たせるかなって」(控えめな感じ)
男「うん」
女「でもはっきり言ったら可哀そうじゃん・・?」
男「ああ(笑)でもシュウくんアグレッシブだからね」
女「うん。すごいメール来た」
男「どんな?」(食いついた感じではない)
女「え、何か、地元どことか、絶対最後は疑問系で締めてて(笑)」
男「すげえ(軽い笑い)あれ、情報社会学一緒だもんね」
女「うん、なんかノート見せてとか。私も取ってないんだけど(笑)」
男「あれ大丈夫だよ」
女「ていうか私ら3年じゃん。卒業できんのかな?」(別に回答が欲しいわけではない聞き方)
男「大丈夫じゃない?」
女「ていうか、シュウくんどうしよう(笑)?」
男「えー、なんで?シュウ駄目なの?」
女「えー」
男「すごい優しいじゃん」(別にシュウを養護してるわけでもない)
女「うん。優しい」(割と即答)
男「いい奴だよね」
女「いい奴だと思う。でもなんか弟って感じ」
男「あー」
女「なんか」
男「そうだね。(間)子供っぽいとこあるかも」(手探り)
女「うん。誰か好きな人いるんだって言っとこうかな?」
男「あ、ベタに?」
女「飯田先輩とかかな?」
男「あーベタ!」(格好いいらしい)
女「うん、でー、何かセッターとかでポジションかぶってるから凄い相談されたがるの(笑)」
男「あー」(どうやら大学のバレーサークルらしい)
女「セッターってさ・・。みたいな?(笑)」
男「疑問系で?」
女「うん、この間普通に無視したけど(笑)」
男「ねえよそんな悩み(笑)」
女「和田先輩とかどうかな?」(好きな人の話題に戻った)
男「彼女いるじゃん?っていうか二人とも」
女「そういうキャラで行こうかな?」
男「(笑)」
女「えっとー実は好きな人いるんですーって言えば」
男「その二人だとシュウあきらめるかも」
女「普通になんか、タフだよね」
男「うん、シカトとかされてももう、攻めるよあいつは」(シュウは割りとタフらしい)
女「うん」
男「ていうか真面目にいないの?」(女の好きな人の話しになった)
女「えー。吉岡さんとか?」
男「あー、良いんじゃない?」(まるでショーウィンドウの商品を選ぶみたいに)
女「良いよね。なんか包容力あるし」
男「うん、でももう恋愛沙汰は勘弁だよね?」
女「結局尻拭いって言うか、人間関係とか調整すんのうちらだもんね」
男「うん」
女「ていうか前4年の先輩に超怒られたし」(サークルで色恋沙汰があったらしい)
男「後は?」(矛盾なく恋の話に戻る)
女「んー?」
男「一年生に期待かな?」
女「ああ、新しい奴をあさるか(笑)」
男「(笑)あさる」

ここで、調布について女性のほうが降りる事になった。

声の感じからして女性は170センチオーバーはありそうだった。(バレーサークルだから男のほうも170後半くらいか?)

電車の中で会話している人の方向を向くのは失礼なので、

僕は降車する時に路線図を見るフリをして女性の顔をはじめて見ることが出来た。






ええええええええええ!!!!








「貴乃花」やないかーーー





いや違う。むしろ










若乃花やないかーーーー




電車の中は戦場のように会話の弾丸が飛び交っている。

この日は色々収穫があった。

ちなみに男の顔は見れなかった。

さあ寝よう。

2009-04-07

春、下痢はまだしてない

物凄く久しぶりにここに文章を書いて見ようとさっき思った。

さあ、いつの間にか僕は4月から社会人になった。

大学も卒業して、就活もしていないから4月から何の予定もないので、

きっと自分はうつ病になるんだと思っていた。

そもそも在学中も春になると必ず極度に気分が落ち込むことがあって、

周りに迷惑をかけていたので。


さて、今年の四月は




全くない。


おかしいくらいに毎日が充実している。

それはシアターコクーンでのバイトが決まって芝居が見放題だとか

ある有名なコンテンポラリーダンサーとダンスをすることになっただとか

4月に下北沢でちょっとした二人芝居をすることになったとかで毎日が忙しいのも原因だと思う。

というか、自分の中で知らず知らず自分が在籍していたサークルを背負っちゃってたところがあるから

かなあとも思った。

肩の荷が下りたとたんに物凄く身軽になった。

部長なんて役職をやっていたけどやはり自分は後輩肌なんだと思った。

「ホーム」っていうのは自分を助けてくれる部分もかなりあったけど

守られている盾の分重くて動きづらい感じなのかもしれない。

ていうか勝手に自分で重くしていたのだろう。

今はできるだけ新しい人と関わりたい。

自分のことを知らない人、話したことない人、話そうと思わなかった人、

話しかけたくても離せなかった人、自分のことを一方的に知っている人、

年齢も性別も国籍も関係なく。

これももしや新たな「ホーム」作りの一環だったりするのだろうか。

しかしそう思っていたら、

最近やたら不審者とか宣教師とかに話しかけられる。

不審者のおばあちゃん(痴呆かもしれない・・よくわからない)

にこの間話しかけられたときは

「お前アイボだろ?アイボだろ?!」

と、人間はこんなに他人に悪意を真っ直ぐぶつけられるのかと思うくらいの状態で言われた。

たぶん機械の犬のアイボのことだろう。

「お前の鼻はマイケルジャクソンだな!?」
「生きてる価値無いよね~、ほんと生きてる価値ないわ」

などの罵倒を十数分続けた後に彼女は帰っていった。

もちろんコミュニケーションは一方通行だ。

宣教師のお兄さんとは「人生」の意味について路上で30分くらい喋っていた。

このときは楽しかった。

宣教師の人からも「自分のこの世における機能はなんだと思いますか?」

とかおばあちゃんからも「生きてる価値がない」とか言われるし、

なんだか共通しているのかもしれない。

「あなたの生きてる意味はなんですか?」と宣教師の人に言われた時、僕は

「特にありません」

と答えた。

生きる意味は、あるものじゃなく掴み取るものだと思ったからだった。

自分を毎日磨きながら、みんな自分の生きる機能とか意味とかを必死になって掴もうとしてる

そんなもんなんじゃないかと思った。

生まれた時から生きる意味を与えられてるのは一部の特権階級だけなんだろう。

みんなそれを探して生きてるんですよ。

今は僕には特にこの世に存在する意味とか機能とかはないけど、


これから少しづつ僕は自分の生きる意味を作り出したり

掴もうと思っている。

もしかしたらあのおばあさんも何かがあって、

ああやって他人に悪意をぶつけることで必死になってこの世界とつながろうとしていたのかもしれない。

悪意をぶつけることで他人を確認して自分が存在していることを

かろうじて確認しようとしていたのかもしれない。

もうちょっと話してみればよかった。